「3D新時代」が到来 ハリウッド映画の完成度と2つの映像技術
3D映画「センター・オブ・ジ・アース」のイメージ画像。
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先日、3D映画「センター・オブ・ジ・アース」をはしごした。まず午前10時から地元の新百合ヶ丘にある「ワーナー・マイカル・シネマズ」で観賞し、その日の夜に「新宿バルト9」で同じ映画を見た。なぜ同じ作品を2カ所で見たかというと、違う3D方式だからだ。ワーナーは「REAL D(リアル・ディー)」、バルト9は「Dolby(ドルビー)3Dシネマシステム」という互換性のない方式をそれぞれ採用している。(麻倉怜士のニュースEYE)
2つの方式を見比べたが、基本的に3D効果に関して大きな違いはなかった。それより驚いたのが、3Dのクオリティーだ。これまでの3Dは、見た後にかなりの疲労が脳内に蓄積するものだったが、実写作品の「センター・オブ・ジ・アース」は完成度が高く、一部に違和感はあったものの(後述する)、これまでと比較して人間の視覚とのマッチングもよかった。
私をしてはしごさせるくらい、最新の3D映画は強力な魅力を持っている。今回は、まずハリウッドで大ヒットし始め、やがて家庭に入ってくる方向が見えてきた3D映画の最新動向を報告しよう。
「今後、制作する映画はすべて3D」

米ドリームワークス・アニメーションSKGのジェフリー・カッツェンバーグCEO
〔AP
Photo〕
ハリウッドはいま、全社を挙げて3D制作に突入している。米ドリームワークス・アニメーションSKGのジェフリー・カッツェンバーグCEOは「今後、制作する映画はすべて3Dにする」と2Dは作らない意向を高らかに表明している。
米ディズニーは今、約20作品を作っているが、そのうちの半分が3Dという。米ワーナー・ブラザーズは「ハリー・ポッター」シリーズの次回作を3Dとして制作している。
業界筋によると、2009年には13作が公開予定で、制作中の作品を含めると、約40タイトルにも及ぶという。
具体的には、来年はドリームワークスの「MONSTERS
VS
ALIENS(モンスターズVSエイリアンズ)」、米二十世紀フォックスによるジェームズ・キャメロン監督の「Avatar(アバター)」、同じくアニメ大作「アイスエイジ3」などの3D大作が控えている。
ジョージ・ルーカス監督は新しい技術に対して鋭敏に反応する人で、「スター・ウォーズ」の過去の作品を3Dに変換しているところだ。近い将来、劇場で上映する計画を立てている。現在のところ全世界でも1900スクリーン程度しか3Dに対応する映画館がないので、これがもっと増えた時にリリースする計画と言われている。
ちなみにデジタルシネマは全世界で約6300スクリーンある。裏返せば、その約3割がすでに3D対応しているともいえる。もう3Dでないと映画が始まらないという流れにきているのだ。
エンターテインメントの主役の座を競う映画とテレビ
面白いのは、映画とテレビの関係だ。テレビ文化が盛んになると、映画は必ず何か新しい仕掛けを打ち出してくる。
1950年代にアメリカでテレビが出現し、瞬く間に流行った時は、テレビにはない大画面の迫力を映画館で味わってもらおうと、「シネラマ」という超ワイドスクリーン方式が開発された。それが後に横長のデファクト・スタンダード「シネスコ・サイズ」に継承された。
テレビが横長をフォローする形で、まずはSDのワイドテレビ、そして次にハイビジョン放送を16:9の横長で家庭に提供するようになると、映画は立体音響というサラウンドシステムを取り入れ、テレビの音と差別化を図った。
家庭がホームシアターという形で立体音響を使ったシアター文化を構築しようというトレンドなって、映画はいよいよ立体映像を打ち出したというわけだ。歴史的に考えてみると、テレビと映画がエンターテインメントの主役の座を争うという構図が見えてくる。
スピルバーグ氏とルーカス氏の「3D宣言」

ディズニーが米国で公開中の3D映画「BOLT(ボルト)」
(c)Disney Enterprises,
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では、なぜいまハリウッドが大挙して3Dを目指しているのだろうか。
そのひとつのきっかけとなったのは2005年の「ショーウエスト」という展示会で、映画監督のスティーブン・スピルバーグ氏とジョージ・ルーカス氏が「3D宣言」を発したことにある。「これからの映画は3Dだ。3Dにすることで映画はさらに発展する!」と強い檄を飛ばしたことが業界に大きなインパクトを与えた。
この2005年は、まさに今に続く3Dブームのきっかけになった年である。
これまで3Dは何回かブームを起こしている。第1のブームは1950年代、2回目は1970年代から80年代にかけて、今回は第3回目のブームといってもよい。
3回目のブームのきっかけとなったのが、ひとつは大物監督による3D宣言であり、同時にこの年にディズニーの3D映画「Chicken
Little(チキン・リトル)」が大ヒットしたことが、業界を3Dに向かわせる大きな流れをつくった。
チキン・リトルはREAL
D方式という当時全く新しいメソッドで提供され、従来の3D映画にあった疲労感や不自然さという阻害要因が極めて少なかった。誰でも長時間楽しむことを可能にした技術がチキン・リトルを大ヒットさせたのである。
「売り上げ3倍」の魅力
その結果、それに続けとばかりに各社が3Dの作品をリリースしている。
例えば、「The Nightmare Before
Christmas(ナイトメアー・ビフォア・クリスマス)」は、映画監督のティム・バートン氏による2Dの作品だが、3Dに変換したところ、旧作にもかかわらず大ヒットした。2006年、2007年と2年連続でクリスマスにかけた時期にヒットしたというほどの勢いがある。
端的にいうと、3Dが儲かるから劇場とハリウッドが目をつけている。デジタルシネマの範疇において、2Dのシアターと3Dのシアターでは売り上げが3倍も違うという。まず入場料は通常6ドルのところ、10ドルとれる。値段が高いのに多くの客が来る。儲かることなら何でもやるのがハリウッド流であり、大挙して儲けに走る構図が出てきた。
日本の3D事情はハリウッドの後追いでしかないが、客に対するアトラクションという意味では確実に儲かる方向にきているらしい。私が夜9時の回のセンター・オブ・ジ・アースを見た新宿バルト9では、「土曜、日曜は満員でお客が並んでいる状態。料金は2000円と普段より高いが、3Dは着実にお客の足を増やしている」と従業員が言っていた。
メガネなしの3D、実用化は遠く
3Dがここまで新しい映画文化を創りそうな勢いをみせるようになったのには、いくつかの理由がある。
まず、なぜこれまでの2回はブームが定着しなかったのかを考えてみると、3D特有の不自然な映像の問題が指摘できる。3Dの究極はメガネなしである。その究極を求めて各研究所や大学はかなりの勢いで研究開発を進めている。
例えば、今年のIT・エレクトロニクス展示会「CEATEC JAPAN」でみた、NICT(情報通信研究機構)が日本ビクターと共同開発した裸眼の3D映像はなかなかきれいだった。70インチのスクリーン上にフルハイビジョンで、暗い中から対象物が浮かび上がってくる映像だったが、画素数は1億という。フルハイビジョンは200万画素なので、50倍の画素が必要になってくる。さらに視点を増やすとなると、より多くの画素数が必要になる。
そうなると、やはり簡単にできるのは、メガネを使った3Dだ。右用の映像と左用の映像をメガネで分離し、右用の映像を左目に見せないようにすることで、両眼視差という立体視の仕組みを頭の中に再現する。
ここにきて盛り上がっている3D映画もメガネ方式だが、実はここに問題があった。
すぐに廃れた赤・青メガネ
そもそもメガネ方式で立体画像を表現する技術は非常に歴史が古く、元祖となる赤と青のメガネを使った「アナグリフ」という方式は1953年に開発されている。映画が実用化される前の写真の技術を延長したものである。
ところがアナグリフ方式は非常に遮断効果が少なく、クロストーク(漏れ)が多い。右目に入るべき光が左目にも入ってしまう。漏れた光には色が付いているから、全体的に赤と青の色がついた世界の中にやや立体らしきものがある、という感じにしか見えない。
赤・青メガネを使った立体映像は既にパッケージ化され、「ポーラー・エクスプレス」などがBD-ROMで発売されている。もともと3Dで公開された映画のマスターをそのまま赤と青にエンコードし、ビデオに焼き付けたもので、映像は二重になっている。BD-ROMのパッケージには赤・青メガネが同梱されている。
実際に私も見たのだが、なんともはやの劣画質で、まったく実用にならない。立体効果は少しあるかもしれないが、全体に色がついてしまい、非常に不自然な映像だ。頭が痛くなり、数分でギブアップした。
このBD-ROMは3D映像しか入っていないのではなく、通常の2D映像のおまけとしての3Dなので実害はないのだが、いずれにしても赤・青メガネはほとんど日光写真の域を出ないおもちゃである。
そんなわけで両眼視差方式による赤・青メガネを使った3D映像はすぐに廃れた。
偏光メガネは頭を傾けられない
その後、偏光を与えることによって右と左の映像を分離しようという技術が進んだ。右用の映像に水平偏向をかける。右目用のレンズには水平偏光が入っているのでそれが見える。左目用のレンズには垂直偏光が掛かっているので見えない。偏向による光カットの仕組みを入れたことで、クロストークが減り、実用化が進んだ。
しかし、ここにも大きな問題があった。偏向は水平と垂直方向で90度違っている。この90度の関係を厳密に維持しないと立体効果は得られない。維持するには、頭を動かすことができない。少し傾ければ、偏光が狂い、本来は遮断されるべき光が入ってきてしまうのだ。そうすると、ギブスのようなものをはめなければならず、非常に疲れてしまう。
もうひとつは映画は24コマ/秒で作られ、上映時には倍速で48コマ/秒で映写される。それを片目ずつみるため、実際には24コマ/秒となり、ものすごくちらつきが出る。
人間は生理的に、1秒間の枚数が56枚以下の時にはフリッカー(ちらつき)を感じるという。例えば、NTSC方式は60コマだが、PAL方式は50コマ。日本人がヨーロッパに行ってPAL方式のテレビを見ると、フリッカーを感じるのはその差なのである。50枚でもバタバタするのに、24枚だとものすごくバタバタして疲れてしまう。
派手な演出も疲れの要因に
もうひとつはコンテンツ的に人をびっくりさせるために、例えば槍が目の前に飛んでくるといった派手な効果に凝りすぎた点もある。テーマパークでは滞在時間が短いため、派手な演出でもあまり問題がないが、2時間映画を見るとなると大変だ。
このように効果が派手な分、疲れが多いという技術的、コンテンツ制作的な問題があり、過去の3D映画は本格的なブームとはならず、一時の楽しみで終わることになった。
今回はブームということでは3回目にあたるのだが、技術的な取り組み、映像創作的な取り組みは従来とは格段に違う次元にきている。ブームとして終わるのではなく、劇場はもちろん、家庭に広がり、新しい楽しみ方として定着するとみている人が多い。
REAL D方式は疲労感少なく高画質
では、今回の3Dは従来とどう違うのかを、3D研究専門会社であるREAL Dが開発したREAL
D方式で分析してみよう。今回のブームの最大の要因は、REAL
Dが2005年にディズニーと「チキン・リトル」を共同制作し、疲労感が少なく高画質な、それまでと全く違う映像を作ったことにある。
REAL Dはそれまでにも産業向けの3D映像システムを数多く開発してきた。自動車や航空機の設計業務における3Dデザイン、医療教育における3Dの活用、地下油田探索における3D画像によるリモートセンシング、軍事用などの分野においては、3D映像は既に多数使われている。
REAL Dはこれらの分野で先駆的な開発を進め、保有する特許は1万件以上に達している。そして2000年以降、映画分野に進出すべく研究開発を進め、結果として開発されたのがREAL D方式だ。いまや業界標準になっている方式である。
3Dのバリューチェーンを説明しておくと、まずルーカス監督のようなクリエーターが3D映像を作る。これがマスターになる。今度はマスターを劇場に配給・上映するために、ディストリビューションフォーマットが必要となる。ディストリビューションフォーマットとして開発されたのがREAL D方式で、この方式にのっとって配布ファイルを作り、それを劇場でエンコードしてREAL D方式のプロジェクターにかけるという流れになる。
3つのメリット
そのREAL D方式のポイントは3つある。
第一に、頭を傾けても立体効果が変わらないこと。従来は、垂直偏光、水平偏光という直交偏光を利用していたので、頭が傾くと必ず二重像が出た。これに対し、REAL D方式は円状の偏光を使っているので、いくら頭を傾けても立体効果はまったく変わらない。
DLPプロジェクターのレンズの前に偏光板を置き、回転させて偏光を与え、観客はそれと同じ円形偏光のメガネをかけて映像を見る。首の位置に関わらず立体効果が得られることが非常に大きなブレークスルーであった。
2番目はフリッカー対策だ。従来のフィルムのプロジェクターは24コマ/秒となるが、DLPプロジェクターを使えば、もっとハイスピードな映像を再生できる。片目用に72コマ、両目で合計144コマという従来の6倍速で映像を走らせるので、人の頭脳はフリッカーを感じなくなる。
3番目は、DLPプロジェクターを使うこと自体の革新性である。これまでは左右に2つのフィルム映写機を置き、同期化して使っていた。DLPプロジェクターは一台でOKだ。それを144コマで運転して、72コマずつ片目用の映像を出していくシステムを作ったのである。
しかも2D用のプロジェクターを改変することなく、通常のプロジェクターの前に偏光を付ける回転フィルターを設置するだけで済む。従来のデジタルシネマとの互換性を打ち出したことも評価された。
ただし、レンズの前にフィルターを置くため、その分輝度が下がってしまう。そのため、スクリーンは通常のホワイトマットという全反射型の方式ではなく、シルバータイプというゲインの高い高反射型が必要となる。
2005年のチキン・リトルからスタートして、REAL
D方式は今、世界27カ国101社の劇場チェーンと契約し、稼働中のスクリーンが1400、契約が済んだ段階のスクリーンが5000あるそうだ。これらを合計し2年以内に計6400スクリーンに達する見込みという。
れになる。
現れたライバル、ドルビー

ドルビー3D方式の3D映画で使う専用メガネ
さて、どのような分野においても1社だけの独占はありえない。この世界でもライバルが現れた。それがドルビーだ。
ドルビーは映画音響の世界的なデファクトスタンダードを持つ会社であり、近年は音響だけでなくデジタルシネマのディストリビューション方式のシステムも開発し、かなりの勢いで導入されている。
その延長として、デジタルシネマに3D機能を付け加えたドルビー3Dシネマシステムを開発、2007年10月から商用を開始した。約1年で24カ国530スクリーンで稼働するまでに成長している。
基本的なシステム構成はREAL D方式に似ている。DLPプロジェクターとメガネを使用し、コマ数が144コマ/秒であるのも同様だが、異なるのは左右の目に映像を供給する方法である。
REAL D方式は偏向を付けることで左右の映像を分離するが、ドルビー3DはRGBの3原色のスペクトルをそれぞれ右用、左用に分割する。映写時には右用だけのRGB、左用だけのRGBを交互に表示する。
ちなみに、従来のアナグラフ方式は赤と青で分離するため、もともと赤の色が持っている青の部分が青で阻害されると必ず色の喪失感がおき、色再現が非常に悪い。REAL Dやドルビー3Dは完璧にオリジナルの色を再現できる画質がよい方式だ。特にドルビー3DはRGBの3原色が完全に得られているので色再現がよい。
元々は独ダイムラーの関連会社、インフィテックが開発した3D方式である。ダイムラーでクルマの3D設計用に開発された技術をドルビーが買い取り、自社のデジタルシネマの中に組み込んだ。れになる。
ドルビー方式のメガネは1つ10万円?
REAL D方式とのもう一つの違いは、メガネである。REAL
D方式はメガネに偏光パターンを印刷すればよいだけなので、映画館では観客に進呈している。観客にとっては200円高い料金も、メガネ代と考えれば安いものだ。
それだけ簡単に作れるメガネとあって、見た目もそれほど悪くない。レイバンがおしゃれなREAL
Dメガネを売っているのも面白い。
ところが、ドルビーの色分離するメガネは非常に作るのが大変で、マルチコーティングによって色を分離するため、10回以上のコーティングが必要になる。かなり値が張り、一説には10万円近くするという。そのため進呈するわけにはいかず、毎回回収してアルコールで消毒し、使うことになっている。
私が感じたメリット、デメリットは、まずREAL
D方式のメガネは常に新品であるから、きれいな絵が見られる。ところが、私が行ったドルビー3D方式の映画館のメガネは、レンズを一生懸命に拭いた跡が歴然で、全体的に曇っていた。曇りの向こうの3D映像というのも興ざめだ。本質的な問題ではないが、残念に思った。
一方、ドルビー3D方式のメリットは、スクリーンに互換性がある点だ。REAL
D方式が輝度低下をシルバースクリーンで補償しているのに対し、ドルビー3D方式は原理的に輝度低下がないため、通常のホワイトマットスクリーンを使える。劇場は2Dの映画も3Dの映画も上映するわけだが、スクリーンを交換せずに済む。
自然に感情移入できる3D

麻倉氏がREAL D方式とドルビー方式で見た「センター・オブ・ジ・アース」
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さて、「センター・オブ・ジ・アース」のインプレッションをもう少し詳しく述べよう。
少なくとも今回の視聴では、両方式による大きな違いは分からなかった。ドルビーにいわせると、ドルビー3D方式の方が長時間視聴した時の疲れが少ないらしい。RGBで自然に分離している効果なのだろうが、私はそこまでは体験することができなかった。
どちらの方式がどうというより、今回の映画に関しては、3Dとして自然さが高まったと思った。特にこの作品は、CGではなく実写の映像ということで期待していたのである。場面によっては欠き割れに見える部分や、やや演出過剰のような部分はあったが、基本的には全体を通して従来からいわれているような3D疲れを感じることはあまりなかった。
3D映画が面白いのは、最初はやや違和感を覚えるが、そのうちに溶け込んでいき、物語にすんなり入り込めるのだ。没入感と言ってもいい。映像の中に入っていけて、自然に感情移入する度合いが2Dの映画より深い。
ピントが合うのにぼけた映像
気になったのが、ピントのずれだ。人間の視覚は立体的にピント調節しているのだが、3Dの映像の場合、目は物理的にスクリーン部にピントを合わせている。だから目のピントが合っているのに、映像がぼけていると不自然な感じがする。
例えば、望遠レンズを使って被写界深度を浅くし、手前の人物にフォーカスをあてて背景をぼかすというシーンがよくある。人間の視覚としてはスクリーンにばっちりフォーカスが合っているにも関わらず、背景がぼけてみえる。ぼけた映像にフォーカスがあたっているのが、すごく気持ち悪い。変に感じた。現実世界では絶対ありえないことだ。
これはコンテンツの制作の問題であるから、いずれ改善されていくと思われる。そもそも、チキン・リトルの公開が2005年であることを考えると、制作過程に3D文化が入ってのはせいぜい2004年頃からであり、たかだか4年しか経っていない。
チキン・リトルから最新の3D映画に至る流れを見ていると、違和感が着実に減ってきており、そこに従来からの進歩がある。これからもさらに進歩するのは確実であり、より自然な没入感、自然な臨場感という「自然」が頭につく映像効果が期待されるのである。
BDを通じて家庭にも3Dを

パナソニックの「3DフルHDプラズマ・シアターシステム」の特設スタジオに並ぶ人の列=9月30日、CEATEC
次に、家庭への展開も述べてみよう。これはCEATECのリポートの延長となる。
ハリウッドで流行ったコンテンツを家庭で見るという流れは、VHS以降のホームエンターテインメントの伝統であり、これほど映画業界が3Dに行くのであれば、3D映像が家庭に入っていく動きは当然起きてくる。特に、BDが普及し始め、BDをメディアに使い3Dを届けようという話が出てくるのは確実だ。
既に今年のCEATECにおいて、パナソニックがBDとプラズマテレビによる3Dシアターを披露したが、連日、押すな押すなの大盛況だった。
BDの中に3Dを実現するのはそれほど難しいことではないらしい。2層のBDであれば50ギガバイトの容量があり、2D映像を約4時間収録できる。つまり3D映像で2時間は確保できることになる。
どのように左右の映像をBDに仕込むか。BDには「ピクチャー・イン・ピクチャー」というインタラクティブ機能がある。大画面の中に、同時に小さい別ストリームを出す技術だ。これを左右用に独立させれば、3D信号をBDの中に入れられる。
倍速の120コマ/秒で記録し、それを交互に映していくことで、60コマ/秒のノンフリッカー信号が得られる。今は液晶では240Hzまでの駆動技術があり、プラズマも今回のパナソニックの3Dシアターでは120Hz駆動で見せていたわけで、ディスプレー側としてもあまり問題はない。
パナソニック方式はフルHDの3D
家庭用では、ドルビー、REAL
Dを含めて各社がさまざまな提案をしている。なかでもパナソニック方式のメリットは、フルHD解像度の映像で見ることができる点にある。ただし、そのためには新しいBDのオプションフォーマットとして、2ストリームのフルHD信号をどう扱うかを考えなければならない。
現行のBDフォーマットの中に2つのストリームを収めることも、ピクチャー・イン・ピクチャー機能を使えばできるが、その場合は解像度が半分になってしまう。やはりフルHDでやりたいところだ。メガネは液晶シャッター方式となる。
これまで、ポスト・フルHDのトレンドとしてさらなる高精細化が言われてきた。4K2K、8K4Kという右肩あがりの解像度の向上が叫ばれているが(特にNHK的な価値観から)、BD制作という観点においては、もし4倍の情報量を持つとなると、25ギガの4倍、100ギガバイトである。
既にBDは200ギガバイトまでのフォーマットの展開をアナウンスしているが、現実問題として100ギガバイトまでのディスクを作るのはなかなか難しい。そうなると、これまでの延長線の高精細ではなく、奥行き方向に高精細化する3Dのトレンドの下で、50ギガの現行のディスクの中にうまく収めるという考えは確かに一理ある。
家庭向け3Dにはプロジェクターを
いずれにしてもBtoBで流行ったものが、次はBtoCに来るという流れが起きているのであり、3Dのトレンドがこのまま広がっていけば、09年末にも家庭で3Dを楽しむ時代がやってくるのではないか。
その場合、プラズマや液晶の直視型もいいが、私としてはやはり家庭に一番ふさわしい3D表示の世界はプロジェクターではないかと思う。
なぜかというと、3D映画は年がら年中見るものではない。やはり特別な映像である。通常のテレビ番組が3Dになることはなかなか考えられない。映画のエンターテインメントは非日常の世界だ。その世界にどっぷり入り込めるような大スクリーン、暗い環境のなかで見るプロジェクターが家庭に入っていく方向が3D文化にはふさわしいと思う。
ハリウッドが作った映画はかなり完成度が高かったが、CEATECで見たパナソニックの映像は、オリンピックなど実写の完成度が低く、どうにもリアリティーに欠けていた。映画の場合と違って、実写のリアルな3D映像は相当注意深く作らないと、それがリアルであるだけに現実との乖離が余計に目立ってしまう。それも制作のノウハウを蓄積することで今後、よりよい方向にいくのではないかと思われる。
業界では「苦しいときの立体映像頼み」などと言われ、テレビが売れなくなると3Dの話題が盛り上がるという傾向があった。しかし、ハリウッドの3Dが一過性のブームに終わらず新しい映像文化が生まれようとしている時代背景を考えると、家庭のなかに本物の3D映像が入っていくことも、決して夢物語ではない。
映画制作で遅れる日本
翻って、日本を考えてみると、日本の映画文化はハリウッドのような方向にいっていない。
例えば、3D映画の分布をみると、アメリカはデジタルシネマ5000館のなかで1000館が3Dとなっている。ヨーロッパは1200のうち300。日本は80のうちの40。そもそもデジタルシネマの設置が圧倒的に少ないのである。
このデジタルシネマに対する取り組みが進まないと、3D映画を身近で見るようにはなかなかなれないのが現状だ。
さらに、日本の映画制作は3Dに対する出動が遅れている。これはアメリカの映画作りと日本の映画作りの文化の差でもある。端的に言って、アメリカの映画はテーマパーク志向で、内容も面白いが映像も面白く、その掛け算で楽しませるという意識がある。
これに対し、日本はどちらかというと内容重視で、コンテンツのよさをストイックに訴える。華美な映像効果だけに頼ることは好まれない。そのため、3Dというチョイスは薄い。
そもそも3Dは基本的にアクションや冒険といった映画に向いており、ハリウッドの価値観と非常によく合っている。ここも日本とは合わない点だろう。
新しい文化が定着するには時間がかかる。ハード、ソフトウエア、コンテンツ、システム、ディストリビューション……。これらの要素がハーモニーを持って展開された時、初めて3D文化が離陸するのではないか。
nikkei
net 参照
http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMITxw000016122008&cp=1